絶縁体接合界面における電気的スピン変換技術の解明
― 次世代MRAMや人工知能デバイス開発への道 ―
九州工業大学、山口大学、Purdue University(米国)、Nanyang Technological University(シンガポール)、Indian Institute of Technology Kanpur(インド)の研究グループ(研究代表者:九州工業大学大学院情報工学研究院 教授 福間康裕)は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)薄膜と窒化アルミニウム(AlN)薄膜の界面(SrTiO3/AlN)に形成される二次元的電子伝導層が電流からスピン流へと効率的に変換し、隣接する磁性体(NiFe)の磁化へとスピン軌道トルクを作用できることを明らかにしました。これにより、今後、スピン軌道トルクを利用した次世代磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)やスピン発振子を利用した人工知能デバイスの開発が進み、スマートフォンをはじめとする様々な情報機器の低消費電力化などが期待されます。
ポイント
- SrTiO3/AlN界面やSrTiO3/Al2O3界面にて電流・スピン流間相互変換作用を観測
- SrTiO3/AlN/NiFe接合にてスピン軌道トルクを利用した磁化制御に成功
- 界面機能を活用した電気的スピン変換技術が進展し、スピントロニクス技術を利用した次世代のメモリや人工知能デバイスの応用に期待
電子は、電荷に加え、スピンという磁石としての性質を持ちます。スピンとは電子が持つ地球の自転に似た角運動量のことで、上向きと下向きの2種類があり、銅やアルミニウムなどの非磁性体では上向きと下向きの割合は等しく、磁石としての性質は全体として打ち消されます。一方、鉄やニッケルなどの強磁性体ではスピンの割合に偏りが生じており、通電によりスピンを帯びた電流(スピン偏極電流)を生成することができます。これを利用した巨大磁気抵抗効果は、ハードディスクドライブやMRAMとして実用化され、エレクトロニクスの発展に貢献しています。このようなスピンの機能を用いる電子デバイス技術はスピントロニクスと呼ばれています。
SrTiO3は人工宝石やコンデンサーとして利用されている誘電体ですが、図1(a)に示すような異種材料との接合界面では原子配列の乱れが生じ、2次元的(界面に対して平行方向)に電子伝導(金属的な振る舞い)を示します。SrTiO3/AlN界面とSrTiO3/Al2O3界面を比較したところ、SrTiO3/AlN界面はより大きな電子伝導を示しました。これら電子は界面電場に対して垂直方向に運動しており、ラシュバ・エデルシュタイン効果により「スピン流」の生成が期待されます。本研究では、スピントルク強磁性共鳴という手法を用いて、スピン流からNiFeの磁化へと作用する「スピン軌道トルク」の大きさを測定しました。磁性体の励起状態である強磁性共鳴(磁化の歳差運動)へとスピン軌道トルクを作用させると、共鳴スペクトルの共鳴線幅(μ0ΔH)が変化します。図1(b)に示すように、SrTiO3/AlNではNiFeの強磁性共鳴線幅が明確に変化しました。この変化はスピンホール効果(バルク)をもつPtと比較しても十分に大きいことが分かりました。
今回の研究では、界面における電気的スピン変換技術を利用して磁化を制御できることを明らかにしました。バルクと比較して、界面は様々な材料の組み合わせが可能です。今回の発見により、今後は界面機能を活用した電気スピン変換技術が飛躍的に進展し、次世代のMRAMや強磁性共鳴(スピン発振子)ネットワークを利用した人工知能デバイスに関する技術革新に寄与するものと考えられます。
なお、この研究成果は、ドイツ科学雑誌「Physica Status Solidi-Rapid Research Letters」に掲載され、2023年6月号の表紙として紹介されました。
【論文の詳細情報】
論文タイトル | “Room temperature charge-to-spin conversion from quasi-2DEG at SrTiO3-based interfaces” |
著者 | Utkarsh Shashank, Angshuman Deka, Chen Ye, Surbhi Gupta, Rohit Medwal, Rajdeep Singh Rawat, Hironori Asada, X. Renshaw Wang, and Yasuhiro Fukuma |
雑誌名 | Physica Status Solidi-Rapid Research Letters |
DOI | 10.1002/pssr.202200377 |
※ 本研究は JSPS 科研費 JP22K04198 およびキオクシア株式会社の支援をうけて実施したものです。
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国立大学法人九州工業大学大学院情報工学研究院 教授 福間 康裕
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