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AI技術で生物進化の原動力になる遺伝子群の同定

更新日:2020.12.09

 AI技術で生物進化の原動力になる遺伝子群の同定 

-ビッグデータとAI技術を利用して生物進化を理解-

九州工業大学大学院情報工学研究院の花田耕介教授(研究代表者)、同大学院情報工学府博士後期課程の江副晃洋氏、同大学院情報工学研究院の白井一正研究員からなる研究グループは、植物のモデル生物であるシロイヌナズナのゲノム配列や遺伝子発現等の大量な分子データを利用し、新しい機能を獲得したコピー遺伝子(重複遺伝子*1)を高い精度で推定する方法を構築しました。さらに、直列重複*2後に新しい機能を獲得した遺伝子が、植物進化の原動力になることを発見しました。この研究成果は様々な植物種に応用することが可能で、病害耐性や環境ストレス耐性を獲得した新しい作物種を作りだす育種研究を加速させる技術革新に寄与できると考えられます。

ポイント

  • 重複遺伝子には、同じ機能を共有し機能を強化する役割と、新しい機能を獲得し生物進化の原動力になる役割を持つ場合が存在するが、これまでどちらの役割を持つかの判別は困難であった。
  • シロイヌナズナに存在する分子のビッグデータをAI技術*3で解析することにより、新しい機能を獲得した重複遺伝子を高精度に推定する方法を開発した。
  • 直列重複した時に作り出される重複遺伝子は、新しい機能を獲得し生物進化の原動力になることを発見した。

今回の研究では、多くの遺伝子を欠損させた形質転換体*4の表現型*5解析が盛んに行われているシロイヌナズナを利用しました。シロイヌナズナでは比較的容易に遺伝子を欠損させた形質転換体を構築することができます。そして、構築された形質転換体の表現型を調べることで、個々の遺伝子機能を把握できます。しかしながら、他の重複遺伝子と同じ機能を共有している重複遺伝子を欠損させた形質転換体では、別の遺伝子が機能を補うため異常な表現型を示さず、遺伝子機能を把握できません。機能を明らかにするためには、機能を共有している重複遺伝子を同時に欠損させ、異常な表現型を確認する必要があります。一方、重複後に新しい機能を獲得している遺伝子は、一つの遺伝子を欠損させるだけで異常な表現型を示すので機能を明らかにできます。遺伝子重複によって獲得した新しい機能は、植物がそれぞれの環境で生き残るために必要な遺伝子機能であるため、非常に有用な遺伝子です。しかしながら、植物の多くの重複遺伝子は機能を共有しているので、新しい機能を獲得している重複遺伝子を見出すことは簡単ではありません。

そこで、本研究グループは分子データの挙動に注目しました。植物の生体内では、個々の重複遺伝子がRNAとして適切に発現し、適切なタンパク質の構造を維持しながら様々な分子と相互作用しています。そのため、重複遺伝子間の遺伝子発現パターンやタンパク質構造変化などの分子データの挙動を比較することで、重複遺伝子が同じ機能を共有するか、独立の機能を有するかを推測できると考えました。そこで、AI技術によって、分子データの挙動からそれぞれの重複遺伝子が同じ機能を共有している遺伝子か、独立の機能を獲得した遺伝子か推測することを試みました(図1)。その結果、シロイヌナズナに存在する複数の分子データのみで、高精度に新しい機能を獲得した重複遺伝子を推測する方法の開発に成功しました。さらに、開発されたモデルを利用して、機能を強化する重複遺伝子と、新しい機能を獲得した重複遺伝子をシロイヌナズナで推測し、直列重複によって生み出される重複遺伝子は新しい機能を獲得する傾向が強いことを発見しました。

このモデルは様々な植物種に応用することができ、植物種がそれぞれの進化過程で獲得した「新しい機能」を獲得した重複遺伝子を効率的に同定できます。これらの中には環境適応に関わる未知の有用遺伝子が含まれると期待されます。つまり、このモデルを様々な作物種に利用し、病害耐性や環境ストレス耐性という進化過程で獲得され続けている有用な遺伝子を効率よく探索することが可能になります。現在、世界規模の環境変動によって、多くの作物種の生産が著しく減っており、今後は食糧生産が大きく減少することが予想されています。これらを避けるためには、病害耐性や環境ストレス耐性を獲得した新しい作物種を作りだす育種研究が必須です。そのため、本モデルで見出される遺伝子は、このような育種研究を加速させる技術革新に寄与できると考えられます。

なお、この研究成果は、英国科学雑誌「Molecular Biology and Evolution」(2020年12月8日(火)21時(英国時間))に掲載されました。


*1 ある遺伝子または遺伝子群をコピーしてできた遺伝子または遺伝子群の総称。
1つの遺伝子が何回もコピーされ、複数の同じ遺伝子から構成される場合もある。
*2 不等交差によってゲノム上に直列に遺伝子重複が起きる現象のこと。
*3 Artificial Intelligence技術(人工知能技術)のこと。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計技術のこと。
*4 遺伝子組換え技術によって細胞外部からDNAを導入し、遺伝的性質を変えた植物のこと。
*5 植物体に現れる形態や形質のこと。



図1 重複遺伝子間の機能の違いを調べるモデルの構築方法の概念図

図1 重複遺伝子間の機能の違いを調べるモデルの構築方法の概念図



論文の詳細情報
タイトル:Degree of functional divergence in duplicates is associated with distinct roles in plant evolution
名:Akihiro Ezoe, Kazumasa Shirai, Kousuke Hanada
誌:Molecular Biology and Evolution
D O I:10.1093/molbev/msaa302

※ 本研究は JSPS 科研費 JP19H05348 の助成を受けたものです。


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  岩熊 (電話:093-884-3008/E-Mail:sou-kouhou*jimu.kyutech.ac.jp)

■ 研究内容に関するお問い合わせ
  九州工業大学 大学院情報工学研究院 生命化学情報工学研究系 教授
  花田 (電話:0948-29-7842/E-Mail:kohanada*bio.kyutech.ac.jp)

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