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細胞を大きくすれば、中が見える!-世界初:生きた細胞を拡大してシグナルの流れを可視化する新しい観察法-

更新日:2026.01.21

細胞を大きくすれば、中が見える!

~ 世界初:生きた細胞を拡大してシグナルの流れを可視化する新しい観察法 ~


本学情報工学研究院の森本雄祐教授、大学院生の林田幸久、五味渕由貴研究員、大澤智興助教、安永卓生教授らの研究グループは、細胞性粘菌において細胞分裂のみを選択的に阻害することで、単細胞を通常の100倍以上に巨大化させる新手法を開発しました。巨大化した細胞は通常の機能を保ったまま、細胞の“前”から“後ろ”へと走るcAMPおよびカルシウムシグナルの伝播を、世界で初めて可視化することに成功しました。本成果は、単細胞内の情報処理の実像を直接捉える革新的プラットフォームとして、細胞生物学や医科学研究に新たな道を開くものです。


発表のポイント

  • 細胞を巨大化しても生きたまま機能を維持:遺伝子操作をせずに「機能的な巨大化細胞」を効率的に作製する手法を確立しました。
  • 細胞の中で“前→後ろ”にシグナルが走る様子を世界で初めて直接観察:cAMP・Ca2+シグナルが細胞内部を方向性をもって伝わる様子を可視化しました。
  • 細胞の動き(極性)と内部シグナルが連動する仕組みを解明:後方に集中する小胞が、細胞内cAMPレベルの局所的な急速低下に関与する可能性を提示しました。


生物の細胞内部では、cAMP*1やCa2+などの化学シグナルがわずか数秒で全体に広がり、細胞の運動方向の決定や組織形成を支えています。しかし、これまでの超解像顕微鏡手法*2は細胞内の構造物を高い空間分解能で可視化できる一方で、かたちをもたず拡散しながら伝わるシグナルの観察には適していませんでした。そのため、直径10 µm程度の小さな細胞内で、これらの拡散シグナルがどの方向へ・どの速度で・どの順番で伝わるのかを、生きたまま観察することは技術的に困難でした。

本研究では、「細胞分裂だけを阻害して細胞を巨大化させる」というシンプルかつ新しいアプローチにより、モデル生物である細胞性粘菌*3の細胞のサイズを劇的に拡大し、光学顕微鏡の時間・空間分解能の限界を実質的に突破し、次のような発見に成功しました。



● 巨大化細胞は通常の細胞機能を維持している


本開発手法で作成した巨大化細胞は、通常サイズの細胞と同様に、cAMPに向かって移動すること(走化性)、前後極性を形成することが確認され、巨大化細胞が「正常に機能する単細胞の拡大モデル」であることが明示されました。これまでにも組織や細胞を化学処理で拡大する膨張顕微鏡法などがありましたが、この手法では生きたままの細胞ダイナミクスの計測は不可能でした。



● cAMPは細胞の“前”から“後ろ”へ向かう波として伝播する


巨大化細胞で高感度蛍光cAMPセンサー(Flamindo2)を用いた結果、シグナルは外部刺激を受けた方向(=細胞前方)から上昇し、シグナルの低下は細胞後方から始まる、という明確な“前後方向の非対称性”が見えるようになりました(図1)。特に、後方には小胞群が集積しており、これがcAMPシグナルの素早い取込・放出に関与する可能性が示されました。



図1. 本研究で確立した細胞巨大化手法による1細胞内シグナル伝搬の観察



● Ca2+シグナルには「二段階の波」が存在


cAMPシグナルと連動して発生するCa2+シグナルは、1回の外部からの刺激に対し、二相性の伝播を示し、細胞運動を制御するアクチン波の動きと相関があることが判明しました。



今後は、この発見により、従来不可能だった「生きた単細胞内のシグナルの流れ」を直接可視化することができるようになり、生命現象の根幹である細胞内情報処理のリアルタイムマップを描く新技術として、医学・創薬分野で重要なシグナル伝達の仕組みを理解する技術基盤になることが期待されます。

また、本手法は哺乳類細胞や植物細胞にも応用できる可能性が高く、将来的には、“細胞がどう意思決定するのか”を解明するための汎用的な計測プラットフォームとなることが期待されます。

なお、この研究成果は、国際学術誌「Communications Biology」(2026年1月21日)に掲載されました。


■ 用語解説


*1 cAMP(サイクリックAMP):cAMPやCa2+は、細胞内で情報を伝える「メッセンジャー分子」として働いている。
*2 超解像顕微鏡手法:光の限界を超えて、通常の顕微鏡では見えない微細な構造を観察できるイメージング技術。
*3 細胞性粘菌:普段は単細胞として暮らすが、飢餓になると数万の細胞が集合して1つの多細胞体をつくるユニークな生物。細胞の移動やシグナル伝達の研究に適した「モデル生物」として、基礎生物学・医学研究で広く利用されている。



■ 論文の情報


タイトル “Establishing functional giant Dictyostelium cells reveals front–rear polarity in intracellular signaling”
著者名 Yukihisa Hayashida, Yuki Gomibuchi, Chikoo Oosawa, Takuo Yasunaga & Yusuke V. Morimoto
雑 誌 Communications Biology
D O I 10.1038/s42003-025-09505-7

※ 本研究は 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけJPMJPR204Bおよび次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)JPMJSP2154の助成を受けたものです。



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【研究内容に関する問い合わせ先】
 国立大学法人九州工業大学
 大学院情報工学研究院 教授 森本 雄祐
 E-mail: yvm001*phys.kyutech.ac.jp
 TEL: 050-1739-2074

【報道に関する問い合わせ先】
 国立大学法人九州工業大学
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